Yoshitomo Nara

奈良美智/ここでは、奈良さんの経歴や業績はあえて記載致しません。

これは僕が奈良さんと初めてお会いした時の話である。

初めてお会いしたのは、僕が北海道の洞爺に滞在中のほぼ一年前。ある日突然、ラムヤートで作業をしているとマスキさん(ラムヤートのオーナー)に呼ばれたことを覚えている。

「カツシンくん、奈良さんだよ!奈良さん!」そう言ってマスキさんがなんの前振りもなく紹介してくれた。 そして僕は、「初めまして。ラムヤートに住ませてもらっているカツシンです。よろしくお願いします。」と自己紹介の台詞かのように挨拶をした。
この時点で奈良さんがどのような人かをご存じの方は驚きを隠せず戸惑いの表情を見せるはずだが、この時の僕は奈良さんという人を全くもって知らなかったのだ。(お恥ずかしい) と言うこともあり、フラッっと洞爺に現れた”イケてるおじさん”というのが第一印象である。

その夜、奈良さんはラムヤートに泊まることになりおいしい食事を共にした。この時になってもまだ奈良さんがイケてるおじさんだとしか思っていない僕に マスキさんがこう言った。「お母さんに写真を送ってこの人がどんな人かを聞いて見たら?」と。(上の写真その時に撮ったもの) 聞くと母は、「あんた知らんの!世界の奈良さんやで」としばし関西弁から離れていた僕に、コテコテの関西弁で返信してきた。 すぐさまWikipediaで”奈良美智”と検索すると自分の無知さが恥ずかしくなったが、その親身な人柄や子供たちに対する愛情は大物かどうかなど関係のない話なので奈良さんの経歴を知った後も、 一人の優しいおじさんだと思って会話をしていた。

その夜は、夜な夜な続き初対面にも関わらずたくさんの話をした。好きな音楽の話。奈良さんが芸術の人として評価を受けることに対しての話。まるで自らの作品でないかのように遠い世界で流通されていることについての話。 芸術やアートにまるっきり疎い僕にも、そのカテゴリーに関わらず奈良さんがこれまで経験してきたたくさんの事柄の本質を伝えてくれた。もちろん男の人が夜になれば自然と話す、好きな女性のタイプなども含めて長い長い夜であった。

その夜は僕にこう教えてくれた。 無知であったことを開き直るつもりはないが、人と出会う時、その人がどういう経歴の持ち主でどういった肩書きを持っているかという前情報(いわゆる先入観)は一切必要のないことだと。 その人と仕事ではなく、”人”として関係を気づいて行く上で、一切だ。もちろん予め知っておくことは大事なことかもしれないが、先入観はどんな物事においてもいつだって邪魔をしてくる。

もしあの日、僕が奈良さんがどんな人かを知って出会っていたらまた違う印象を抱いていただろう。 だからこそ”無知”というのは、時によって怖い存在ではあるが、”知らない”ということは、”知っている”ということより深みが増すこともあるのだ。

僕のこれからの出会いにすごく大切なことを教えてくれた素晴らしき夜だった。 また出会えた時は、20歳になったこともあり互いに酒を交わせれば。

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Written & Photographed by Katsushin Morimoto / Writer

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